自ら動くエージェントに、どこまで任せるか——「確認」と「禁止」を規程に分けて書く
はじめに
この稿は、自ら進んで動くエージェントを会社で使い始める担当者の方への答えです。問いは、エージェントに任せる操作を社内規程にどう書いておくか、というものです。「確認してから動く操作」と「確認しても実行しない操作」を、同じリストに混ぜずに分けて書く考え方の整理です。
材料は 2026 年 10 月 21 日に Anthropic が発表した Claude Duet です。研究プレビューの段階ですが、設計の骨格は公開されており、規程を先に整える材料になります。
Claude Duet が示す 2 つの層
Claude Duet は、指示を待つのではなく、こちらに知らせたいことを見つけて持ちかけるエージェントです。クラウド上の仮想マシンと専用のブラウザで動き、PC を閉じていても仕事を続けます。終わったときや確認が必要なときに通知を出し、記憶・スキル・つながったアプリを Claude のアカウントから引き継ぎます(Anthropic の発表)。
1 つは、承認を挟む操作です。メッセージの送信、支払い、書類への署名、削除の 4 類型で、何をするかを示し、承認を待ってから実行します。
もう 1 つは、承認しても実行しない操作です。証券の取引と、口座間の資金移動は、承認があっても実行しません。
使えるのは、待機リストからの招待を受けた米国の Pro と Max の加入者です。日本での提供時期は未知です(ASCII.jp の報道)。同じ 10 月、同型のエージェントが他社からも出ています。Meta の Muse と OpenAI の dots で、いずれも 9 月の発表です(ASCII.jp の整理)。
承認は速度の調整、禁止は境界
2 つの層は、同じ「人を巻き戻す」機構ではありません。ここから先は筆者の整理です。
承認を挟む層は、止める仕組みではなく速度を落とす仕組みです。作業は進み、境界の手前で止まります。禁止の層は境界そのもので、許可を出せる人がいない夜中でも実行されません。
Anthropic 自身が、承認の質に依存する制限を明記しています。スレッドを読み誤る可能性があり、何が緊急かの判断を誤る可能性があると、発表に書かれています。ブラウザの様子は、まだ利用者に見せられません。
承認を求める頻度と内容は、エージェント側の判断で決まります。規程には、承認を出す人がいない時間の扱いも要ります。急がない操作は保留で進み、確認を要する操作は一覧に積まれる。その 2 つの置き場所を先に決めるのが、承認の層の設計です。
引き継がれるものの、もう 1 つのサプライチェーン
Duet が引き継ぐものの中に、スキルがあります。スキルは Agent Skills という開放標準です。2026 年 10 月 22 日に、Anthropic から Linux Foundation の Agentic AI Foundation(AAIF)へ寄付されました。名前・ロゴ・GitHub オーガニゼーション・agentskills.io ドメインが寄付の範囲です。
Anthropic の発表値では、70 以上のプラットフォームが対応し、100 万件のスキルが公開、約 2.8 億回のインストールがあります。
スキルは、SKILL.md の命令と付随するスクリプトや参考資料の入ったフォルダーで、エージェントの権限で動きます。Snyk の ToxicSkills 調査(2026 年 2 月 5 日公表)は、ClawHub と skills.sh の 3,984 件を走査しました。534 件、13.4% に重大級の問題があります。悪性コードの配布、プロンプトインジェクション、秘密の露出です。重大度を問わなければ、1,467 件、36.82% に問題が見つかりました。人による確認で 76 件の悪性ペイロードを確認し、公開時点で 8 件はまだ導入できる状態でした。
公開の障壁も、この調査の言葉を借りれば、SKILL.md と 1 週間前の GitHub アカウントです。コード署名も審査も既定のサンドボックスもありません。
筆者の 2026 年 10 月 26 日時点の調査では、この話を扱った日本語圏のまとまった報道は見つかっていません。英語圏と中国語圏では、10 月 22 日の寄付の発表と合わせて報じられています。日本の現場にとっては、他語圏で先に進んだ話を自社の規程に取り込む最初の例になります。
社内規程に書き足す 3 つのこと
承認を挟む操作の一覧を、会社の用語で書く。送信・支払い・署名・削除の 4 類型は、Duet の語彙です。社内の業務名に訳し直します(「顧客に連絡を送る」など)。対応が定まると、承認の画面を見ただけで領域が分かります。
承認しても実行しない操作を、別に書く。証券取引と口座間送金は、会社の資産に関わる操作です。Duet は情報の性質でも 3 段階に分けています。クレジットカード番号と政府発行の身分証は拒否し、健康と個人財務は明示的な指示がある場合だけ通します。この 3 段階は情報の規程にも使えます。
引き継がれるものの管理を書く。スキルの出所の記録、提供元の許可、更新時の再確認の 3 つです。Snyk の数字は、読み込み前に読む習慣の根拠になります。出所の記録がなければ、更新の再確認もできません。
参考情報
- Anthropic による Claude Duet の発表、2026 年 10 月 21 日。承認と禁止の一次資料である
- ASCII.jp の Claude Duet の報道、2026 年 10 月 21 日。提供が未知である点と同型エージェントの整理の出典である
- GIGAZINE の Claude Duet の報道、2026 年 10 月 22 日。研究プレビューの位置づけの確認である
- Anthropic による Agent Skills の AAIF 寄付の発表、2026 年 10 月 22 日。寄付の範囲と発表値の一次資料である
- The Linux Foundation による AAIF の発表、2026 年 10 月 22 日。財団の中立な位置づけの確認である
- Snyk による ToxicSkills 調査、2026 年 2 月 5 日。3,984 件の走査と各数値の出典である
本稿は AI の支援を受けて執筆されました。事実の確認と内容の責任は筆者にあります。