情報漏洩を最上位に置く日本の生成AI事情と、規則が書けない理由
はじめに
生成 AI を社内で使い始めたのに、効果が出ないという報告が続いています。
2026 年 9 月 30 日、台湾の経済メディアが総務省の調査を報じていました。調査の中で特に注目するのは、次の数字です。
日本の企業は、生成 AI 活用で心配が大きいリスクとして「情報漏洩等のセキュリティリスク」を挙げた企業が 46.4% でした。中国は 42.7%、米国 36.9%、ドイツは 31.7% です。
そしてこの項目は、日本以外では上位に入っていません。ドイツが 1 位に挙げたのは著作権侵害で、米国と中国が 1 位に挙げたのは出力結果の正確さでした。
つまり日本だけが、漏洩を最も心配が大きいリスクとして 1 位に置いています。
本稿が答えるのは、日本の現場で起きている具体的な問題です。懸念の内容が国ごとに違うなら、社内の規則も国ごとに違う形になるはずです。その差を、規則の軸で切り分けます。
参照した情報は 2026 年 10 月 3 日時点のものです。総務省の報告原文は未取得であり、示す数字は二次報道に基づくものです。
各国で 1 位が違う
| 国 | 1 位に挙げたリスク | 割合 | | --- | --- | --- | | 日本 | 情報漏洩等のセキュリティリスク | 46.4% | | 中国 | 出力結果の正確さ | 42.7% | | 米国 | 出力結果の正確さ | 36.9% | | ドイツ | 著作権侵害 | 31.7% |
この表から読み取れるのは、懸念の中身が 3 つに分かれていることです。出力結果の正確さ、著作権侵害、情報漏洩です。
正確さと著作権は、点検の手続として書けます。回答を検証する工程を 1 つ足す。著作物の出所を 1 段確認する。どちらも作業の流れに組み込めます。
漏洩はそうではありません。漏洩は回答の誤りではなく、入力の移動です。点検だけでは防げません。送信先を決める、送信前のデータを変える、記録を残す。いずれも手順と運用の話になります。
1 軸の規則が落とすもの
漏洩を 1 位に置く組織が最初に書くのは、原則禁止か条件付き許可です。正当な選択です。
問題は粒度です。「生成 AI の使用を原則禁止」と書くと、同じ重みの 2 つの操作が同じ扱いになります。チャットで調べる操作と、社内の秘匿情報を外部サービスに入れる操作です。
現実には、この 2 つの漏洩の危険度は違います。
社内の資料を外部に入れる操作だけが、漏洩の経路になります。チャットで質問する操作は、入力が顧客のものではない限り、危険度は一段下です。
禁止の粒度を揃えると、現場で必要になる文言は 1 つだけになります。逆に揃えないと、禁止の範囲が広すぎて、現場は規則を無視する方を選びます。
2 軸で書く
解決の方法は、軸を 1 つ増やすことです。2 軸に増やします。
1 つめはデータの性質です。4 つに分けます。社内公開の資料、顧客情報を含む資料、未公表の数値、そして社外秘の資料です。
2 つめは送信先です。3 つに分けます。社内承認済みのサービス、外部のサービス、そして未登録のツールと未登録の拡張機能です。
2 つの軸を掛けると 4 マスになります。すべてのマスに判断を書きます。
4 マスの割り当て
公開済みの資料を承認済みサービスに入れるマスは、承認済みと書きます。判断が規則に載るため、現場は判断不承担くて済みます。
未公表の数値と外部サービスのマスは、明示的に禁止と書きます。ここを空欄にすると、空欄は裁量と読まれます。
空欄と禁止は違う指示です。空欄は裁量、禁止は指示です。両方を混ぜると、現場は常に前者として読みます。
拒絶のコストが重いマスほど、代替を 1 つ書いてください。承認された代替が規則のどこかに具体的に書いてあれば、現場は迷わずそちらへ移ります。
制度側の見直しが始まった
2026 年 10 月 2 日、内閣府、デジタル庁、経済産業省は AI の社会実装を阻む規制や制度上の障害について、10 月 19 日から 30 日まで意見を募集すると発表しました。対象は LLM から agentic AI、物理 AI までを含みます。
これは前進です。ただし対象は政府側の制度であり、社内の規則ではありません。
政府の制度が変わっても、社内の規則が書けるわけではありません。政府と社内では別の速度で進むからです。
だから現場が今できるのは、社内の 2 軸を先に埋めることです。
今日できる確認
自分の組織について、次の 3 点を確認してください。
- 社内規則の軸(データの性質と送信先の 2 軸)
- 4 マスそれぞれに書いた判断(禁止、裁量、承認)
- 現場が迷ったときに参照する 1 枚があるか
1 番目を「まだ決まっていない」と答える組織が最も多くなります。2 軸目が書けていない組織は、1 軸目をいくら精密に書いても機能しません。1 つの軸では 2 つの軸を表現できないからです。
規則が書けない理由は、資料が足りないことではありません。軸が 1 つしかないことです。
参考情報
- 総務省「国内外における情報通信技術の研究開発やデジタル活用動向に関する調査研究」(2026 年 9 月公表)。本稿の数値は二次報道に基づく。報告原文は未取得であり、公表後に修正される可能性がある。
- 上の調査は、総務省が毎年実施している一連の調査の一部である。原典の確認には、公表された報告書を直接参照する必要がある。
- 台湾の経済メディアによる同調査の報道(2026 年 9 月 30 日)。
- 内閣府・デジタル庁・経済産業省による AI 制度見直しの意見募集開始(2026 年 10 月 2 日発表、募集期間 10 月 19 日から 30 日)。
⚠️ 上記はいずれも二次報道です。正式な一次資料は未取得のため、数字は変更される可能性があります。引用する際は原典を確認してください。