採用は 87% なのに、効果が明確に出たと言えるのは 9%——PwC の 6 カ国比較を読む
はじめに
この稿は、日本で生成 AI を導入したのに、効果を「明確に出た」と言える段階に進まない理由を、1 つの調査から考えます。
社内で AI エージェントの予算を説明する立場の方なら、次の数字に心当たりがある方も多いのではないでしょうか。採用は進みました。けれど、成果を数字で示せ、と言われたとき、何を出せばよいか分からない。この稿は、その「言えない」状態が、実は測定の物差しを持っていないことから来ている、という話をします。
PwC の 6 カ国調査
PwC ジャパンは 2026 年春(調査実施は 2026 年 2 月から 3 月)に調査を実施しました。対象は、売上高 500 億円以上の企業で、生成 AI の導入を検討・判断できる立場の管理職など、約 3,000 人です。
その結果は、日本の「採用」と「効果」のギャップを、6 カ国比較という形で示しています。
採用率と効果率のずれ
採用率は進んでいます。日本の生成 AI の採用・推進率は 87% で、米国の 90% にほぼ並びました。
ところが、効果の方は大きく違います。「期待を大きく上回る効果が出た」と答えた企業は、米国 38%、英国 32%、中国 18%、ドイツ 17%、韓国 11% に対し、日本は 9% で 6 カ国中最下位でした。
さらに、成果を従業員や顧客に還元できたと答えた企業も、日本は 40% で、米国・英国の 70% 超を大きく下回りました。
物差しが二つある
この差は、「採用」と「効果」が、そもそも別の物差しで測られることから来ます。
採用率は、「使っているか」を測る物差しです。これは進みやすい。ツールを配れば、使う人は増えます。
効果率は、「期待を超えた成果が出たか」を測る物差しです。こちらは、効果を何で測るかが決まっていないと、出せません。この「何で測るか」を決める手順が、社内規則に書かれていないことが、日本で効果が言えない原因の1つです。
使用の偏り
調査は、日本での AI の使い方の偏りも示しています。報告書の作成やメールの送信などに使う割合は高い一方、動画や音声、プログラムコードの生成にはあまり使われていません。
つまり、採用は広がっても、使われているのは低リスクで成果を測りやすい仕事が中心です。この構造は、効果を「大きく出た」と実感しにくい方向に働きます。
Gartner の予測
この傾向は、別の報告とも符号します。Gartner は 2026 年 10 月の報告で、エージェント型 AI のプロジェクトの 40% 超が、2027 年末までに中止されると予測しました。その理由は、コスト上昇や効果の不明瞭さ、リスク管理の弱さです。
中止を避ける鍵は、効果を測る物差しを、導入の前に決めておくことです。量が多く、手順が定型化された仕事を選び、導入前の基準値を記録しておくことが、この報告の示唆です。
技術者ができること
制度に手を出せなくても、測定の物差しは技術者が作れます。
効果を測る項目を決める。「時間が減った」ではなく、どの工程の、どの時間が減ったかを定義します。
導入前の基準値を記録する。効果は比較でしか言えません。導入前の数値を残しておくことが、後に「言える」ための材料です。
定型の仕事から始める。量が多く手順が決まった仕事ほど、効果の差分を測りやすいです。
参考情報
- PwC ジャパン・グループ、生成 AI に関する 6 カ国調査(2026 年春実施、調査期間は 2026 年 2 月から 3 月)。報道による二次報道であり、PwC の一次報告書は未取得
- 日本の 87% 採用、9% が「期待を大きく上回る効果」で 6 カ国中最下位、40% しか成果を還元できていない、という数字は複数の二次報道で一致することを確認
- Gartner、エージェント型 AI プロジェクトの 40% 超が 2027 年末までに中止されるとの予測、2026 年 10 月の報道。二次報道であり、原文は未取得
- 総務省の調査(2026 年)、日本の生成 AI 利用率 86.4%。採用率の裏付けとして確認
- InfoSec Write-ups の分析記事(2026 年)、採用・適応・捕捉の三段階という枠組み。参考にした
出典の信頼性について
本稿の数字は、PwC ジャパンの調査を報じた複数の二次報道にもとづきます。PwC の一次報告書は未取得です。日本の 87% と 9%、6 カ国中の最下位、40% という数字は、複数の報道で一致することを確認しましたが、原文で確定したい場合は PwC ジャパンの公式発表をご確認ください。
そのため本稿では、数字の多寡ではなく「採用と効果は別の物差しで測られる」という構造を論点としました。